内容
3月24日、れいわ新選組山本太郎代表は記者会見を開き、記者からの質問に答える形で「ウクライナにおけるナショナリスト組織」の解説を行った。その中で「これらウクライナの民族主義・ナショナリスト武装組織が政治家と結託し、国外から戦闘員をリクルートしながら勢力を拡大する様子を、ガーディアン、NEWSWEEK、デイリー・テレグラフなど国際的に有名なメディアが伝えている」として、西側メディアによる記事を紹介した。
「英紙デイリー・テレグラフ」からは、2022年3月2日配信の「WHY IS THE WEST SILENT ABOUT UKRAINIAN NEO-NAZI MOVEMENTS, AZOV BATTALION & BANDERA LEGACY?」を紹介し、「なぜ西側はウクライナのネオナチを無視するのか」と記事の内容を説明した。この記事は紹介した資料の中では最も新しく、唯一ロシアによる侵攻開始後に公開されたものでもあった。
問題点
山本代表が紹介した記事は、山本代表が行った説明とは致命的に異なる点が2つある。
①山本代表がスライドで表示したサイトは英テレグラフ紙とは全く関係のないニュースサイトである
スライドにも"NEW ZEALAND"の文字が見える通り、まずこのニュースサイトは "Daily Telegraph New Zealand (以下、DTNZ)"であり、また英テレグラフ紙とは全く関係のない、個人または少人数の団体が運営するニュースサイトである。
We are not affiliated with any ‘Daily Telegraph’ publication overseas.
NZ の俳優兼ジャーナリストである David Farrier 氏によると運営者は反ワクチン主義者のようで、記事の中には確実にデマと思われるものも散見される。
スロベニアの mRNA ワクチンには、食塩水のみや2年後に癌になるボトルが含まれている(告発した動画は削除された)と主張する記事。
日本で新型コロナウイルスの感染者数が激減した時期と、イベルメクチンの導入時期が一致すると主張する記事。
David Farrier 氏による DTNZ 運営者の記事。
②山本代表が紹介した記事は、英テレグラフ紙ではなくロシアのスプートニク通信社によるものである
この DTNZ はオリジナル記事の他にロシア国営のスプートニク通信社とロシア・トゥデイの記事を配信しており、山本代表が紹介した記事はこれに該当する。
山本代表が紹介した記事(DTNZ)
配信元(スプートニク通信社)
結論
れいわ新選組山本太郎代表は、動画中で繰り返し「ロシアの肩を持つという視点ではありません」「停戦合意を一刻も早く進めるためには、当然ロシア側からどういう景色が見えているのかということを当然考えなければ」と主張していた。しかしこのような記事の初出や情報源に気がつけないのであれば、その主張を支えている内容も危うく感じる。
そもそもどういった経緯で DTNZ を引用するに至ったか、なぜサイトや配信元を確認しなかったのか。調査能力にも問題があると言わざるを得ない。
ある時機を境に、山本代表は「エビデンス」の重要性を演説で主張している。しかし2020年の5G推進法案反対に関する談話で挙げた事例にも誤りや情報源が不明であるものが含まれていた。このような粗雑なエビデンスから国政や世論に影響を及ぼしかねない主張を行う国政政党があることは、国民として非常に不安を覚える。
まとめ:"れいわ"が海外事例として挙げた5G規制について
— こちらOCEP第五電算室 (@ocep5v) 2020年6月8日
* "スイスのボード市"は「ヴォー州」の誤訳である可能性
* "サンフランシスコ市"ではすでに5Gサービスを開始している
* サンフランシスコ市近郊の自治体で基地局設置を止めた事例はあった
* ネタ元は浜田和幸氏?https://t.co/kh1vYGUnX7
(画像差し替え、誤字修正(テレグラム→テレグラフ)を行いました)
追記
ここからは筆者自身の感想(偏見や憶測)が含まれる。
ブコメ等で、DTNZ の記事はあくまで枝葉末節であり、本題(ウクライナにおけるナショナリスト組織)の結論には影響しないのではないか、というご意見を頂いた。確かにこの記事を抜いても山本代表の主張は成立したであろう。 ではここで、山本代表が紹介した DTNZ 以外の記事と発表された日付を、紹介順に列挙する。
- 2016年 欧州安全保障協力機構 「欧州における外国人排斥、急進主義、ヘイトクライム」報告書
- 2014年9月10日 英ガーディアン
- 2014年9月10日 NEWSWEEK
- 2021年1月7日 TIME誌
- 2014年9月8日 アムネスティ・インターナショナル ブリーフィング
- 2014年12月24日 アムネスティ・インターナショナル報告
- 2016年7月21日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ報告
- 2018年1月18日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ ワールドレポート2018
- 2016年4月15日 欧州安全保障協力機構 レポート
- 2015年11月16日〜2016年2月15日 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報告
ぜレンスキー大統領が就任した2019年5月20日より後に発表された記事はTIMES誌しかなく、全体的に情報が古いように感じられる。
OHCHR 報告ひとつ取ってみても、最新の報告書ではどうなっているか調べていただいたツイートがあったためこれを引用する。
OHCHRの資料「ウクライナの人権状況レポート」は、れいわの提示した2016年以降も出続けていて、最新版は2021年1月版です。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2022年4月3日
内容が多いのできちんと読めていませんが、とりあえず2016年版と違い、azovの4文字はありません。https://t.co/hWtfCmoJpV pic.twitter.com/MqVIeJoZLi
れいわ新選組は、なぜ最新版レポートではなくわざわざ6年前の版を選んで提示したのか説明できないと、「アゾフ脅威論は古い」という対抗説に対する説得力が低いでしょう。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2022年4月3日
ウクライナはおそらく、いろいろ問題を抱えた国です。もし戦争に勝っても、戦後は問題山積でしょう。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2022年4月3日
でも、少なくとも政権交代後の情報があるなら、それを使うべきでしょう。第三者の古い情報を使う必要はない。
さもないと昔の問題をほじくりかえす敵対国に利用されるだけです。
筆者は、この会見自体がウクライナに平和を寄与するためのものというより、れいわ新選組が行ったロシア非難決議反対や、ぜレンスキー演説に対する態度を正当化するための、いわば身内に向けられたものだったのではないかと感じている。実際、れいわ新選組支持層からこの会見内容は好意的に見られているようではある。
「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会」のために日本ができることはなにか。少なくとも、古い資料から独裁者の意図を推し量ることではないと思うのだが。