OCEP第五電算室

この国を今一匹の亡霊が徘徊している――クソネミと言う名の亡霊が。

「スイスのボード市」は存在するか〜れいわ新選組5G推進法案反対声明を検証する

先日、れいわ新選組が擁立した参議院議員候補が、過去に 5G 陰謀論(5G で野鳥の大量死)を Facebook で主張していたことが話題となった。

note.com

このようなあからさまな陰謀論ではないものの、れいわ新選組は不明瞭な情報源を引用して 5G 推進に反対を表明した事がある。

内容

2020年5月27日、れいわ新選組「「電波法」改正案はじめ5G推進法案について、れいわ新選組の考え方」と題した声明を発表した。そこには「電波法」改正案及び「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律案」に反対したこと、及びその理由が掲載されている。

reiwa-shinsengumi.com

この記事の中では、省庁へのヒアリングの他に勘案材料にした「世界事例」が挙げられている。

【海外における5Gの健康への影響への懸念について】

・スイス・イタリア・ベルギーなどで、5Gの基地局から出される電磁波の人体に対する影響を懸念して、5Gの導入禁止を打ち出している。

・今年4月、ベルギーの首都ブリュッセルでは5Gの実験・導入を禁止する措置が発表された。イタリア政府はすでに5Gの使用を制限する裁判所の決定を告知している。

・スイスのボード市やアメリカのサンフランシスコ市にても同様の決定が相次いでなされている。 (委員会審議では、スイスでの禁止報道を伝えた記事が資料として提出された。)

・米国では5Gが使用する周波数帯域の一部が気象衛星の使用する帯域と干渉し(5Gが発するノイズを気象衛星が受信してしまう)、ハリケーン観測など気象予報の精度が最大で30パーセント低下する恐れと懸念されている。

・NOAA(米国海洋大気庁)とNASAは、共同で気象衛星を運用している。 大気の温度、湿度、高度別のオゾン量や雲の分布、海面温度などを観測することができる。日本の気象庁もこの衛星のデータを受信している。

・こうした指摘について、NOAA長官は「気象予報の精度が30パーセント低下し1980年当時の精度になってしまうだけでなく、ハリケーンの事前予測期間が2日から3日ほど短くなる」と懸念している。

この内、後半の気象観測に関する指摘は存在する。

news.yahoo.co.jp

今回はそれ以外の、「欧米において 5G の導入禁止を行った事例はあったか?」について検証を行った。なお、事例があったとしてもその妥当性については今回は問わないものとする。

また、今回の検証は不十分であると筆者は考えているので、漏れている事実があればご指摘いただけると幸いである。

情報源と思われる記事について

まず始めに、今回の「世界事例」には情報源と思われる記事が存在する。それは、元参議院議員浜田和幸氏が2019年8月に公開した以下の記事だ。

www.data-max.co.jp

 しかし、日本では5Gが人体におよぼす健康被害の危険性が無視されているのが気がかりだ。なぜなら、本年4月2日、ベルギーの首都ブリュッセルでは5Gの導入を禁止する措置が発表されたからだ。ほかの欧州諸国でも追随する動きが出始めており、イタリア政府はすでに5Gの使用を制限する裁判所の決定を告知しているほどである。

 〔中略〕海外では、前述のベルギーやイタリア以外の、スイスのボード市やアメリカのサンフランシスコ市でも同様の決定が相次いでなされている。

ちなみに、海外の陰謀論サイトでもこれらの国や自治体が 5G 禁止の事例として挙げられている。なんでも、5G は NWO による計画の1つだとかなんとか。

Simultaneously, as awareness over its horrific health and privacy impacts is rising, many places are issuing moratoriums on it or banning it, such as the entire nation of Belgium, the city of Vaud (Switzerland) and San Francisco (USA).

www.absoluteunderstanding.org

検証

これより、れいわの声明が2020年5月に出されたことを考慮した上で行った検証をまとめる。

全体

そもそも、欧州で 5G は禁止されつつあるのか?

れいわ新選組声明の「世界事例」では「導入禁止」「使用を制限」など強い言葉が並んでいるが、欧州で行われているのは基地局建設等を延期する「モラトリアム」であり、上記の国々でも一部の地域を除いて 5G 商用サービスが開始されている。

スイスやベルギーの事例についてはdocomoのサイトでも解説されているため、こちらもご参照いただきたい(というか、これを示すだけでこの記事は終わってもいいくらいだ)。

www.docomo.ne.jp

モラトリアムの理由には、健康被害への懸念だけでなく安全保障の観点から基地局をファーウェイから別の業者に切り替えることも含まれる。

www.swissinfo.ch

スイス

「ボード市」は存在するのか?

「ボード市」について、スイスにおける1万人以上の基礎自治体を調べてみたが、それらしきつづりの自治体は見当たらなかった。日本語の表記揺れ等も考慮に入れて探したところ、市ではなく「ヴォー州(canton of Vaud)」の事例が確認できた。

www.takebackyourpower.net

「ボード市(city of Vaud)」という表記は Twitter などで検索しても浜田氏の記事より前では見つからず、これが初出かつれいわ新選組が参考にしたと考える理由の一つである。

スイス全体ではどうなのか?「委員会審議」とは?

まず、スイスは欧州でも早期(2019年5月)に商用 5G が開始した国でもある。

www.tel.co.jp

しかし2020年2月、英紙フィナンシャル・タイムズは「5G、スイス政府が健康懸念で使用停止」と報道した。

www.sankeibiz.jp

「世界事例」で挙げられている「スイスでの禁止報道」を伝えた「委員会審議」とは、2020年4月7日に行われた衆議院総務委員会の本村伸子議員(共産党)の委員会質問を指すと思われる。

kokkai.ndl.go.jp

しかし、これに対して政府参考人の谷脇氏は「報道されておりますような5Gの停止を決定したというものではございませんで、携帯電話事業者による5Gサービスや基地局整備はおおむね進められているものと承知をしております」と答弁している。

kokkai.ndl.go.jp

いくつかの州で基地局の新規建設が遅れるといった事例は存在するものの、政府が 5G 導入を禁止している、という話ではない。他の報道では、スイス政府が5G基地局を許可しないよう勧めた事実はない、とされている。

www.swissinfo.ch

ベルギー

ベルギーでは2020年4月1日に "5G light"、日本では Sub6 と呼ばれる帯域を使用した商用 5G サービスがローンチしている。ただし、ブリュッセルでは独自の基準を満たさないためとして(空港周辺を除き)除外された。

www.brusselstimes.com

ブリュッセルで 5G の実験を中止する記事は見つかった。しかし日付は2019年4月であり、れいわ新選組が示した「今年(2020年)4月」ではない。

dennjiha.org

筆者としては、2019年8月に公開された浜田氏の記事をそのまま流用したためズレが生じたのではないかと考えているが、憶測の域を出ない。

イタリア(検証不十分の可能性)

イタリアでは2019年7月から 5G サービスがローンチしているが、裁判所が使用を制限するといった事例は確認できなかった。

xtech.nikkei.com

耳の腫瘍は携帯電話が原因である、との判決を出した事例は確認できた。しかしこれは2009年〜2017年の事例であり、 5G とは関係がない。

www.afpbb.com

https://www.tokiorisk.co.jp/service/product_liability/pl/pdf/pdf-pl-08.pdf

その他、裁判所が(携帯電話やコードレス電話から発せられる)マイクロ波の危険性を国民に周知するキャンペーンの実施を政府に求めた事例は確認できた。

microwavenews.com

単に筆者の検索不足の可能性もあるため、情報があればお待ちしております。

サンフランシスコ市

景観上の理由から 5G 基地局が制限されることはあったが、健康上の理由で制限していると言った事例は確認できなかった。

www.smartcitiesdive.com

サンフランシスコ市の近郊にあるミルヴァレーやセバストポル等の自治体で禁止する条例が制定される事例はあった。しかしサンフランシスコ市ではない。

wired.jp

まとめ

  • スイス・ベルギー・イタリアでは一部の地域や自治体を除き 5G はサービス中であり、今も計画が進められている
  • 「イタリアの裁判所が 5G の制限を決定」した事例は確認できなかった
  • サンフランシスコ市でも 5G サービスは提供されている
  • 「スイスのボード市」は存在しない
  • 浜田和幸氏の記事を参考にした可能性がある

感想

欧州で 5G が懐疑的に見られていることは事実であり、懸念をまとめて陰謀論として一蹴してよいものではない。れいわ新選組は省庁ヒアリングを行っており、舩後議員のコメントにもあるように、当事者からの意見を国会に届けられるという期待もできたであろう。

しかし、その期待を打ち砕くには十分すぎるほどのものがこの「世界事例」にはあった。

れいわ新選組内には「政策審議会」なるものが存在し、政策について議論を交わしているということだが、果たして十分な議論が交わされた上での法案反対だったのだろうか。当時は参議院議員2名のみだったとはいえ政党交付金も支給された国政政党であることには変わりなく、発表から2年が経とうとする今でも折りに触れては思い出してしまう事例だった。

補足

電磁波問題市民研究会が2020年6月に都知事選主要候補者へ送った公開質問状に、山本代表は回答しなかった。

dennjiha.org

れいわ新選組は2021年衆院選マニフェストでは「最新のデジタルインフラ整備を国が保障する」と謳われているが、 5G 導入の是非については記載されていない。

reiwa-shinsengumi.com