OCEP第五電算室

この国を今一匹の亡霊が徘徊している――クソネミと言う名の亡霊が。

「ヨウ素剤の代わりにイソジン30倍希釈液が効く」は本当か? #おしどりマコ擁立問題

対象言説

月刊誌「DAYS JAPAN」2018年1月号「安定ヨウ素にアレルギーがある人はどうしたらいい? 薄めたイソジン、名付けて「ウスジン」に注目!」*1で紹介されている、安定ヨウ素剤の代替として、30倍に希釈したイソジンうがい薬が効果的とする主張。

選定理由

この主張は、Twitter や2018年頃の各地での講演会でくりかえし発言されており、広く伝播しているため。

判定

誤り

(判定基準・及びレーティングはNPO法人ファクトチェック・イニシアティブが公開している「ファクトチェックのガイドライン」及び「ファクトチェックのレーティング基準」を参考にしている。)

判定理由

DAYS JAPAN 2018年1月号記事、及び11月号「今月のこぼれ話」から情報を整理する。

まず、1月号の記事では大阪大学大学院医学系研究科の本行忠志教授の研究から、安定ヨウ素剤の代替になるもの、または安定ヨウ素剤を服用できないヨウ素アレルギーの方でも服用できる代替品の研究の結果、イソジンうがい薬の30倍希釈が安定ヨウ素剤より効果があるとして紹介されている。

1月号記事の内容は以下の通り。

  • マウスに様々なヨウ素を含む食品を投与し、6時間語に放射性ヨウ素を投与。24時間後に解剖して甲状腺を測定した
  • 同様の調査をヒトで行ったわけではない*2
  • 30倍希釈液は、小児で200ml、大人で400ml服用することで安定ヨウ素剤に代わる量となる
  • 事故発生当時にイソジンを飲んではいけないとされていたのは、原液で飲む人がいるからではないか
  • もちろん、原液で飲んではいけない
  • 防衛医科大学総合臨床部教授の田中祐司氏も同様に、イソジンでうがいしてあまりゆすがなければ、残ったイソジンで放射性ヨウ素をブロックできる、と主張していることを紹介
  • 今回の実験は今後論文にまとめる

11月号の「補足記事」

DAYS JAPAN 2018年11月号に掲載された「補足記事」の内容は以下の通り。

  • イソジンガーグルは本来飲むものではない
  • 絶対に原液で飲んではいけない
  • ヨウ素アレルギーの方にはイソジンガーグルも禁忌
  • ヨウ素アレルギーと分かる前の新生児も避けるべき

ただし、イソジン希釈液を飲む判断については、おしどりマコ氏は1月号に掲載した本行教授及び田中教授の代替案を再び引用し、読者に任せるとしている。

大きな地震が頻発しているのに、原発が再稼働していっているこの国では、安定ヨウ素剤を手に入れておくという儡えが必要。 けれど、間に合わなかった場合、それぞれが情報を得て判断することが重要だと思いました。

問題点

2011年3月14日、放射線医学総合研究所ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません -インターネット等に流れている根拠のない情報に注意- というプレスリリースを発表した。

ここでは、うがい薬が安定ヨウ素剤の代替とならない理由を以下のように説明している。

・うがい薬などの市販品は内服薬ではありません。これにはヨウ素以外の成分が多く含まれ、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれます。
・たとえ飲んだとしても、ヨウ素含有量が少なく、放射性ヨウ素が集まるのを抑制する効果がありません。

放医研が指摘する「体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質が含まれる」「ヨウ素含有量が少ないため効果が期待されない」点について、1月号記事・11月号記事共に含まれていない。

11月号に記載されなかった「指摘事項」

11月号の補足記事が書かれた背景には、1月号に対する指摘がおしどりマコ氏に寄せられたことがある。特に、元JAEAの井田真人氏との応答は Twitter でも確認できる。

togetter.com

井田氏は応答の中で、服用者自身がヨウ素アレルギーがあることを知らぬまま服用し副作用にあってしまう危険性や、30倍希釈液400mlでは足りないことを指摘しているが、11月号の補足記事には掲載されなかった。

おしどりマコ氏は、イソジン30倍希釈液はあくまで安定ヨウ素剤が手に入らなかった場合の代替、としている*3。ただし、記事からは重篤な副作用がでる危険性や有効性について判断できる情報に乏しく、また放医研のプレスリリースを否定できるほどの研究もなされていない。よって誤りと判定した。

参考

togetter.com

iina-kobe.com

補足:「ヨウ素アレルギーの方向け」はどうなったのか?

検証は以上だが、検証中に気になった点について追記する。

1月号記事の前半では、本行教授の研究発表について、ヨウ素アレルギー持ちの方向けの研究でもあると書かれている。

安定ヨウ素剤が禁忌の方に代替になるものがあればいいよね?調べてみました!というご発表です。


前述の「安定ヨウ素剤が禁忌」というのは、この副作用の話。ヨウ素アレルギーの方々に、安定ヨウ素剤以外で、放射性ヨウ素をブロックできる代替のものは無い?ということなのです。

一方で、記事後半の本行教授へのインタビューではヨウ素アレルギーについては触れられておらず、11月号記事ではうがい薬もヨウ素アレルギーには禁忌であるとされ、代替にはならないと否定された。

1月号記事のヨウ素アレルギーについての指摘に対して、おしどりマコ氏はこのように返答している。

確かに1月号記事の最後には、ドイツでは安定ヨウ素剤の代替として過塩素酸カリウム、パークロレイトが用意されているが、日本では未承認薬であることが触れられている。ただ、タイトルだけでなく本文中にも「安定ヨウ素剤が禁忌の方に代替になるもの」についての研究と明示されているのが、いつの間にか対象外になり、11月号記事ではっきりと禁止されているのは、どこか腑に落ちない。

*1:このタイトルはおしどりマコ氏がつけたものではない https://twitter.com/makomelo/status/944192356881907712

*2:本行教授は同記事内で「私も試しに飲みましたけどねぇ、コップ一杯飲みましたが、お腹も壊すことなく元気でしたよ。あ、マウスもピンピンしてました」と主張している

*3:https://twitter.com/makomelo/status/1017848062776041473